「Yes-No」(オフコース・1980)
※この話はフィクションです。
今は昔、1984年。
その1年前に友人のI君からベストアルバム「YES-YES-YES」を借り(パク)た事から僕の音楽はオフコース一辺倒になった。
オフコース・・・そのアルバムのジャケットを見ながら名前だけ聞いたことあるなと思いながらレコードの針を落とす。
A面の最初「僕の贈り物」は聴いた覚えがないが僕の好きな70年代フォークの匂いを感じ「眠れぬ夜」「秋の気配」は叔母が聴いていたラジオでなんとなく流れていた記憶がある。
B面の一曲目「Yes-No」で比較的ハードなサウンドとメロディで一気にファンになってしまう。
歌謡界では松田聖子、小泉今日子、たのきんトリオ、チェッカーズ。所謂「8○年組アイドル」が活躍していた時代。もちろん歌番組もチェックしていたが「シンガーソングライトのニューミュージックこそ音楽」と「わかったふり」の中学生だった。
「Yes-No」
まだ「抱いて」の意味が「抱擁」くらいにしか認識できていなかった僕は「君を抱いていいの?」「好きになってもいいの?」と言う歌詞に人を好きになるのに何を大げさにと思いながら苗字の関係でたまたま横の席になったSさんに「好きになってもいいの?」と聞いたらどうこたえるのだろう?と疑問がわいた。
「いいよ」と答えてくれたらどうしよう。淡い期待2/3。面白い返ししてくれないかなと1/3。
早速授業中にも関わらずサビの「君を抱いていいの」と歌いだし、すかさず「好きになってもいいの?」とSさんの方を向いて歌ってみた。
多分聞こえていると思うが彼女は素で聞こえないふりをする。
もちろん想定内の対応であるが、だめもとで「いいの?」ともう一度押してみる。もちろん聞こえないふりをしたまま黒板を見つめている。
すると一つ後ろの席のこれまた別のSさんがすかさず「あかんに決まってるやろ!」
「そりゃそうだよね。」苦笑いしながら彼女の「Yes-No」の返事を聞くこともなく僕の淡い気持ちは音を立てずに流れて消えた。